前回、塩椎神(シオツチガミ)の助言に従い、
海神 綿津見神(ワダツミ)の宮殿にやって来た火遠理命(ホオリ)。
海神の娘 豊玉毘売(トヨタマビメ)にうまく取り入って
ワダツミと面会でき、トヨタマビメと結婚までしてしまったのですが・・・
なんか忘れてないか、ホオリ・・・
前の話:山幸彦と海幸彦② 火遠理命(ホオリ)と豊玉毘売(トヨタマビメ)
釣針のことを3年も忘れていたホオリ(火遠理命)
ホオリ「あ~、のどかだなあ~・・・」
ここは海神 ワダツミの宮殿。
ホオリがトヨタマビメと結婚した日から、もう3年の月日がたっていました。
この3年間、のんびりと幸せな毎日を満喫していたホオリでしたが、
でも、なんか忘れているような気も・・・
ホオリ「あっ・・・」
急に深刻そうな表情になったホオリ・・・
自分が兄の釣針を失くしたあの件を、今ようやく思い出したんです。
3年も忘れてたのか!
ホオリ「はあ・・・」
トヨタマビメ「・・・?」
トヨタマビメは、ため息をつくホオリを心配して、父に相談します。
トヨタマビメ「さっき、ホオリが深い溜め息をついたの・・・」
ワダツミ「ほう~・・・」
トヨタマビメ「もう3年になるけど、今までため息なんてついたこと無かったのに・・・」
トヨタマビメ「なにか理由があるのかな・・・」
ワダツミ「本人に訊くのが一番早いだろう。」
ワダツミは、ホオリに直接訊いてみます。
ワダツミ「貴方がため息をついたと、娘が心配しております。なにか訳でも・・・?」
ワダツミ「そもそもここに来たのは何故?」
もう3年も経ってるのに、今頃それを訊くのか・・・
ホオリもホオリなら、ワダツミもワダツミですね。
ホオリ「それが・・・」
ホオリは、釣針を失くして兄に責められたいきさつを、ワダツミに全て話しました。
だれかホデリの釣針を知らないか?
ホオリの話を聞いたワダツミ、海の魚たちを呼び集めるとこう言いました。
ワダツミ「誰か釣針を取った者はいるか?」
魚「そういえば、鯛のやつが『喉に骨が刺さってご飯が食べられない』って言ってました。」
魚「きっと鯛が釣針を取ったんでしょう。」
え~・・・
鯛のやつ、3年もご飯が食べられなかったの・・・?
そこで、鯛の喉を調べてみると・・・
あった!
ありました!
兄の釣針です!
ワダツミが教えた呪文
ワダツミは、その釣針をすぐに取り出して洗い清めると、ホオリに差し出してこう言いました。
ワダツミ「兄にこの釣針を返す時に、こう唱えなさい。」
「この鉤(ち)は、淤煩鉤(おぼち)、須々鉤(すすち)、貧鉤(まぢち)、宇流鉤(うるち)」
これは呪いの言葉(呪文)です。
その意味はこんな感じ・・・
この釣針(を持った者)は
心が塞(ふさ)がる釣り針
心が急(せ)く釣り針
貧しくなる釣り針
愚かになる釣り針
ワダツミ「呪文を唱えたら、釣針を後ろ手で渡しなさい。」
「後ろ手で渡す」とは、つまり相手に背中を向けて渡すってこと。
こういう普段とは逆の行為は、それだけで呪いの儀式になると考えられていました。
ワダツミは、続けてこのように言いました。
ワダツミ「兄が高いところに田を作ったならば、あなたは低いところに作りなさい。」
ワダツミ「兄が低いところに田を作ったなら、あなたは高いところに作りなさい。」
ワダツミ「私は水を操る神です。三年の間に必ず兄は困窮するでしょう。」
塩満珠(シオミツタマ)と塩乾珠塩乾珠(シオフルタマ)
次にワダツミは、ホオリにふたつの玉を渡しました。
塩満珠(シオミツタマ)と、塩乾珠(シオフルタマ)です。
塩満珠(シオミツタマ)
海を満潮にする力を持つ珠
塩乾珠(シオフルタマ)
海を干上がらせる力を持つ珠
ワダツミ「もし兄が恨んで攻めてきたら、この塩満珠を使って溺れさせ、助けを乞うたらこの塩乾珠で助けなさい。」
ワダツミ「こうやって兄を悩まし、苦しめてやりなさい!」
さて、3年ぶりにホオリが帰還することになりました!
そしてこれから、兄 火照命(ホデリ)との対決が始まります!
あれ・・・?
目的は釣針を兄に返すことだったのでは・・・?
なぜ、いつの間にやら対決することに・・・?
つづく
次の話:山幸彦と海幸彦④ 火遠理命(ホオリ)と火照命(ホデリ)の対立